あらくんチャンネルの記録 その7
「パパ、これ買って」
コンビニの買い物途中、息子はそう言うと小さな箱を買い物カゴに入れた。
息子は土曜日の朝に卓球クラブに通っていて、送迎途中にコンビニで朝ごはんを買うのだ。
「じゃあ、明日の卓球の試合が終わった午後に動画作ろうか」
その箱は結晶を作る実験キットだった。
息子なりにYouTubeのネタになりそうかなと目をつけたらしかった。値段も300円以下。これならまあ良いだろう。
翌日は県の卓球クラブチームに通う小学生の大会で、息子は初めての大会参加だった。
緊張するなか諦めずに戦ったが、全く歯がたたずに惨敗。小学校でのクラブ活動では校内チャンピオンだといきがってただけあって、ショックなようだった。
努力しないくせにプライドばかり高い息子なので、それなりに傷ついただろうと思った。
そんな帰宅後に、約束した通りYouTubeの動画撮影を行った。
試合で負けた後だからどうなることかと思ったが、息子はこう言った。
「卓球の試合の話していい?それで試合の映像をちょっと入れてさ」
自分がボロ負けした試合の話をするというのだ。息子の性格的に自分の恥をさらすようなタイプではなく、いつも他人に良く見られようとかっこつけている。
いったいどういうことかと、こっちもドキドキしながら撮影が始まった。
撮影は順調だった。息子も試合で負けたエピソードを入れ込みながら結晶を育てるキットの作りかたをレビューした。
ただ予想外だったのが、結晶が固まって完成するのに1~2週間かかるということ。パッケージを見ただけではそのことに気がつかなかった。
ということで、2週間後に再び撮影。
普通に完成した結晶を見せただけでは面白くないので、息子と話して途中経過を写真で撮ることにした。
毎朝結晶の育ち具合を見てその変化ぶりを話し、親子のコミュニケーションも増えた。
結晶の育ち具合も毎日変化があり、見ていて面白い。こういった実験系のレビューなら息子も勉強になるしいいかなと思った。
しかし2週間後、続きを撮影すると最悪な結果となった。
撮影した日曜日は家族4人で水族館に行く予定だったので、朝7時から撮影を始めた。
前日の夜には息子は撮影にノリノリだったのだが、当日は寝起きで機嫌が悪く、コメントもダラダラ。
YouTubeのレビューといえばカメラに向かってテンション上げめで語るのがセオリーだ。息子の場合、そこまで振り切れない性格なのでそれでも良いと思っていた。
また、カメラの前で満面の笑みと変顔を巧みに使い分けるタレントみたいなYouTuberも私としては引いてしまう。息子は自分なりのやり方で良いと思っていた。
だが、今日のやる気の無い態度には腹が立った。録画中もやる気のない感じなのだ。
動画の前半パートはそれなりに良く撮れたのでかなり残念だった。
私が腹を立てたのにはもう一つ理由があった。
水晶を育てた時に容器の淵にも結晶ができてその様子が面白かったのでレビューしようと2人で話していたのだが、その結晶も前日に勝手に削って壊していたのだ。
じつは撮影2日前くらいに結晶の表面が変色してしまい、本人的には結晶作りに失敗したと思ってそれを削ろうとして周りの結晶も削ってらしい。
息子の機嫌が悪いのも、結晶作りが自分のイメージ通りにいかなかったからかもしれない。
私は不機嫌でやる気の無い息子に腹が立ってイライラしたが、息子の動画なのでそのダメっぷりをそのまま出して息子に学んでもらおうと気持ちを切り替えた。
しかしその後、さらに私の怒りをかりたてる展開になった。
私はこのままダラダラと結晶の実験動画を出すのもどうかと思ったので息子に辞書で結晶の意味をしらべて知らない人に教えてあげたら?と言った。
すると息子は辞書で結晶を調べて読み上げるとこう言った。
「みんな、わかりますか?ぜーんぜん分かんない」
お前はバカか!
息子に始めてバカと言う言葉を当てる経験をした。もちろん心の中で呟いただけだが。
そして完成したのがこちらの動画。
この動画を編集していて私は大切なことを学んだ。
動画撮影で息子は何も悪くなかった。いや、逆に最高のパフォーマンスをしてくれたのかもしれない。
朝7時から眠いながらも頑張ってるけど、やっぱりダラダラしてしまう。そんな小学生のリアルな感じが味になっていた。
辞書で調べたけど結晶の意味が理解できなかったのも、よくよく内容を読むと私もよくわからない説明だった。
あそこで分かっているフリをしていたら、それこそ気持ち悪かったかもしれない。
私はそのことに気づくと考えた。
このYouTube動画制作は息子の好きなようにに、表現力を伸ばすため、とか考えてるけど、心のどこかで自分の手で面白い動画を作りたい。人に褒められるような、あわよくば人気チャンネルに作りあげたいと言う、大人の野心があるのではないか。
まあそんなことを考えさせられたのだが、今日はここまで。
また次回お会いしましょう!